I&H学術研究倫理審査委員会(2018年7月発布)
学術研究に関する倫理審査申請の手引き(手順書)
〇審査の概要
学会発表や論文化を目指した研究を行う場合、事前(研究開始前)に倫理審査を行う必要があります。研究・調査手法は問わず、直接的には人体等に影響・負担を与えない、アンケート調査やインタビュー調査でも、個人の行動、環境、心身等に関わる情報・データを収集する場合は、倫理審査の対象となります。研究を実施する前に、十分に研究内容をご確認の上、倫理審査が必要かどうか判断するようにして下さい。学生が関わる研究は指導薬剤師が「研究責任者」として申請して下さい。
また、学会や学術誌で症例報告を行う場合で、学会発表の規定や投稿規程等で倫理審査委員会が承認していることが報告の条件とされている場合は、倫理審査を行う必要があります。なお、すべての症例報告に倫理審査が必要となるものではありません。倫理審査が必要か不要か分からない場合は、審査を申請するようにしてください。
また、「症例報告の倫理審査を通さなくてもよいと判断した発表」に対しても同意書、患者説明文書については、症例報告の起承転結が保証された時点で作成し、同意を得る必要がありますので、ご注意ください。(全ての症例報告について、原則として同意取得が必要です。)
<倫理審査申請フローチャート>
※迅速審査について
次のいずれかに該当する審査について、委員長が指名する委員による迅速審査を行うことができます。
(1)他の研究機関と共同して実施される研究であって、既に当該研究の全体について共同研究機関において倫理審査を受け、その実施について適当である旨の意見を得ている場合の審査
(2)研究計画書の軽微な変更に関する審査
(3)侵襲を伴わない研究であって介入を行わないものに関する審査
(4)軽微な侵襲を伴う研究であって介入を行わないものに関する審査
(5)公衆衛生上における危害の発生と拡大防止のための緊急の研究
また、(2)に該当する事項のうち、研究の適正な実施を図ることに影響しない、研究者等の職名・氏名の変更については、報告事項として取り扱うこととします。ただし、研究責任者又は研究代表者の変更は、軽微な変更に当たらないものとします。
※「侵襲」「介入」等の定義については、末尾の補足をご確認ください。
〇審査の申請について
倫理審査申請についての項目をご確認ください。
倫理審査申請について
〇審査の期間について
審査会は年に2回程度を予定しています。各審査会で審査されるには、所定の申請締め切り日までに下記担当部署窓口まで申請をお願いします。
各審査会の期日とその申請締め切り日については、年度ごとに決定いたしますので、下記担当部署窓口にお問い合わせいただくか、同担当部署のHPをご確認ください。
〇審査結果について
審査結果は、以下の6つとなります。審査結果に基づいた対応(研究の実施、内容の修正等)をお願い致します。
(1)承認
(2)不承認
(3)保留(継続審査)
(4)停止(研究の継続には更なる説明が必要)
(5)中止(研究の継続は適当でない)
(6)非該当{倫理審査の承認を必要としない(対象外)を承認する}
〇研究の実施状況報告及び完了・中止報告について
倫理審査委員会の承認後、年度ごとに所定の「研究実施状況報告書」を提出してください。また、研究が完了、または中止した場合は所定の「研究完了・中止報告書」を提出してください。
※各報告書の様式は「倫理審査申請について」の項目からダウンロードできます。
〇お問い合わせ
手続き方法等でご不明点等ございましたら、以下の事務担当窓口までお問い合わせください。
(倫理審査委員会事務局)
TEL:0797-35-6216 Mail:ethical-review@i-h-inc.co.jp
補足
◎用語解説(「侵襲」・「軽微な侵襲」・「介入」について)
以下では、倫理審査における「侵襲」「軽微な侵襲」「介入」について解説します。厚生労働省ホームページ『研究に関する指針について(下記アドレス)』も適宜ご参考下さい。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kenkyujigyou/i-kenkyu/index.html
【侵襲】
『人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(厚生労働省)』において、
《研究目的で行われる、穿せん刺、切開、薬物投与、放射線照射、心的外傷に触れる質問等によって、研究対象者の身体又は精神に傷害又は負担が生じることをいう。侵襲のうち、研究対象者の身体及び精神に生じる傷害及び負担が小さいものを「軽微な侵襲」という。》
と定義されています。
穿刺(いわゆる注射等)、切開、が身体に傷害・負担が生じることは理解しやすいかと思いますが、アンケート調査、インタビュー調査においても心的外傷(その人にとって思い起こしたくないつらい体験…災害、事故、虐待、過去の重病や重症など。いわゆるトラウマ。)に触れる質問等をする場合は、侵襲を伴う研究となりますので、注意が必要です。
ただし、後述するように、心的外傷に触れる質問等をする場合でも、匿名で回答する調査や、回答を拒否することができる等、研究対象者に対して、十分な配慮がなされている場合は、研究対象者の精神に生じる傷害及び負担が小さいと考えられ、「軽微な侵襲」となることがあります。
<ポイント>
研究対象者の心的外傷(トラウマ)に触れるようなアンケート調査、インタビュー調査も侵襲を伴う研究となります。
【軽微な侵襲】
侵襲のうち、研究対象者の身体及び精神に生じる傷害及び負担が小さいものを「軽微な侵襲」といいます。具体的には、
- 心的外傷に触れるアンケート調査、インタビュー調査等だが、研究対象者が回答を拒否することができる等、研究対象者に対して、十分な配慮がなされているもの。
- 採血(穿刺)、放射線照射に関して、労働安全衛生法に基づく、医師・看護師など医療資格者が行う一般健康診断で行われる採血や胸部単純X線撮影等と同程度のもの。
- 造影剤を用いないX線MRI撮像(ただし、長時間の行動の制約等がなく、研究対象者の身体及び精神に負担が生じないこと)。
が該当します。
ただし、軽微な侵襲とすることができるか否かは、研究対象者の年齢や状態等から総合的に判断する必要があります。例えば、16歳未満の未成年者を研究対象者とする場合は、上記の事例なども身体及び精神に生じる負担が必ずしも小さくない可能性もありますので、慎重な判断が必要となります。
※軽微な侵襲かつ介入が伴わない研究に関しては、迅速審査が可能です。
<ポイント>
侵襲のうち、研究対象者の身体及び精神に生じる傷害及び負担が小さいものは「軽微な侵襲」となることがありますが、軽微な侵襲に当てはまるかは、研究対象者の年齢や状態等から総合的に判断する必要があります。
※侵襲を伴わないと判断できる事例
以下の事例については人を対象とする研究であっても、侵襲が伴わないと判断することができます。ただし、「侵襲」か「軽微な侵襲」かの判断と同様に、侵襲が伴うか否かについては、総合的な判断が必要となります。
- 心理的外傷に触れない内容について調査するアンケート調査やインタビュー調査
- 自然排泄される尿・便・喀痰、唾液・汗等の分泌物、抜け落ちた毛髪・体毛を研究目的で採取する場合
- 安全性が確証された機器を使い表面筋電図や心電図の測定、超音波画像の影像などを行う時において、長時間に及ぶ行動の制約等によって研究対象者の身体及び精神に負担が生じない場合
- 運動を行なわせ、恒常性の変化(呼吸や心拍数の増加、発汗等)が生じるが、適切な休息や補水等により短時間で治まる場合。また、研究対象者の身体及び精神に傷害及び負担を生じないと社会的に許容される種類の場合(例えば、文部科学省が実施する新体力テストで行われる運動負荷と同程度(対象者の年齢・状態、行われる頻度も含む)である場合)
- 研究対象者のその食経験が十分に認められる範囲内での、特定の食品・栄養成分を摂取させる場合
【介入】
『人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(厚生労働省)』において、
《研究目的で、人の健康に関する様々な事象に影響を与える要因(健康の保持増進につながる行動及び医療における傷病の予防、診断又は治療のための投薬、検査等を含む。)の有無又は程度を制御する行為(通常の診療を超える医療行為であって、研究目的で実施するものを含む。)をいう。》
と定義されています。
「研究目的で、人の健康に関する様々な事象に影響を与える要因の有無又は程度を制御する行為」とは、言い換えると、生活リズム、適度な運動や睡眠、バランスのとれた食事、禁煙等の日常生活における行動に影響を与えることを言います。
例えば、研究対象者の従来の生活リズムを一定期間変化させる場合や、一定期間特定の食品等を飲食することを伴う研究を行う場合は、介入を伴う研究となります。侵襲とは違い、研究対象者への障害・負担の有無・増減とは直接関係しないことに注意が必要です。
例えば、普段喫煙をしている研究対象者に対して、一定期間禁煙をしてもらう場合、研究対象者の健康等に悪影響を与える(負担を与える)ことにはならないように思われますが(侵襲はなし)、喫煙という健康に関する事象に影響を与えるため、「介入あり」ということになります。
<ポイント>
研究対象者の健康等に悪影響を与えずとも、健康に関する事象(生活リズム、運動習慣等)に影響を与える場合は、介入がある研究となります。